所得が減ったら予定納税額の減額を申請しましょう
予定納税制度と減額申請
所得税は、1月1日から12月31日を課税期間として、その年の終わりに納税義務が確定することになっています。しかし、国家収入の平準化の必要性や給与所得者の源泉徴収制度との兼ね合いから、予定納税という制度がとられています。
予定納税とは、前年分の所得について確定申告書を提出した人が、今年も前年と同額の所得があるものと仮定して、その仮定に基づいて計算した税額を7月と11月に予納しておく、という制度です。
所得税の納期が3期あるのはそのためで、第1期(7月)と第2期(11月)に予定納税し、第3期(2月16日〜3月15日)に確定申告をすることになります。
税務署は、その年の5月15日の現況によって予定納税基準額を算出して、6月15日までに、予定納税基準額と予定納税額(7月に納付)を、納税者に通知することになっています。
予定納税基準額とは、前年分の課税総所得金額に対する税額から前年分の源泉徴収税額を差し引いた金額です。なお、予定納税基準額が15万円未満のときは、予定納税をする必要がありません。
また、予定納税額は前年の所得金額に基づいて計算されるため、所得金額が前年に比べて著しく減少するような場合には、予定納税額が実際の納税額より大きくなっています。
そこで、その年の6月30日の時点で、その年の申告納税見積額が予定納税基準額よりも少ないと見込まれる場合には、予定納税額の減額申請ができることになっています。
なお、減額の申請は、その年の7月15日までに予定納税額の減額申請を所轄の税務署長に提出して行います。
予定納税基準額が15万円以上の人には6月15日までに税務署から通知が届きます。ちなみにこれは個人事業主側で支払うかどうかを選択することが出来るわけではありません。予定納税は、納税義務があります。支払いしない場合はその分延滞税がかかるので注意しましょう。
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続
予定納税額の減額申請手続
予定納税の義務のある方が、廃業、休業又は業況不振等により、
@その年6月30日の現況による申告納税見積額が予定納税額の計算の基礎となった予定納税基準額に満たないと見込まれる場合や、
Aその年10月31日の現況による申告納税見積額が既に受けている減額の承認に係る申告納税見積額に満たないと見込まれる場合において予定納税額の減額を求める手続です。
減額申請手続における申告納税見積額の計算は、その年の税制改正があった場合には、改正後の税法を基として計算します。
予定納税額の減額申請が認められるケースとは?
(1)廃業や休業、失業をした場合
(2)業況不振などのため、本年分の所得が前年分の所得よりも明らかに少なくなると見込まれる場合
(3)災害や盗難、横領により事業用資産や山林に損害を受けた場合
(4)次の1から5のように、本年分の所得控除額や税額控除額が前年分と比較して増加する場合
@災害や盗難、横領により住宅や家財に損害を受けたなどのために雑損控除を受けられる場合
A多額の医療費を支出したため、医療費控除を新たに受けられる場合や前年分よりも医療費控除額が増加する場合
B配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除、寡婦控除、寡夫控除を新たに受けられる場合や、これらの控除の対象となる人が増加した場合
C社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除の控除額が増加する場合や、一定の寄附金を支出したため寄附金控除を受けられる場合
D(特定増改築等)住宅借入金等特別控除や政党等寄附金特別控除、認定NPO法人等寄附金特別控除、公益社団法人等寄附金特別控除、住宅耐震改修特別控除、住宅特定改修特別税額控除、認定住宅新築等特別税額控除などを新たに受けられる場合や、これらの控除額が増加する場合
予定納税額の減額申請の提出時期
第1期分及び第2期分の減額申請については、その年の7月1日から7月15日までに提出します。
第2期分のみの減額申請及び特別農業所得者の減額申請については、その年の11月1日から11月15日までに提出します。
なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。 この期限に1日でも遅れると、所得税予定納税減額申請書は無効になりますから、期限内に提出するようにしてください。
予定納税額の減額申請に添付する書類
所得税の予定納税減額申請書を税務署に提出する際には、申告納税予定額(見積額)の計算の根拠となる書類を所轄の税務署に提出する必要があります。
たとえば、廃業や業績不振により所得税予定納税減額申請書を税務署に提出する場合には、提出する時の直近の試算表(損益計算書)など、業績のわかる書類を提出しなければなりません。
したがって、予定納税減額申請書に記入する前に、売上、仕入、外注、経費などの数字を集計して把握しておく必要があります。
ただし、おおよその見積額でも大丈夫ですから、それほど正確な金額や数値を求められることはありません。
前年度の確定申告書を提出されている方は、前年度の決算書の数字を参考にしながら、試算表や業績予定表を作るのも一つの方法です。
予定納税額の減額申請書の書き方
国税庁のホームページより、予定納税額の減額申請書をダウンロードすることができます。以下、順にご説明しますので参考になさってくださいね。
予定納税額の減額申請の書き方と記載例
廃業、休業、失業、災害、盗難、横領、医療費、その他(業績不振、控除対象扶養親族・障碍者等の増加など)と、ありますので、該当する項目に〇をします。
例えば、「〇年〇月〇日に事業を法人組織とし、個人事業を廃止したため」というように書いてください、とありますが、個人事業を廃業した旨は書かないほうがいいです。
また、個人事業を廃業した際に提出する廃業届も提出しないほうがいいです。なぜなら、個人事業を廃業して、法人成りをした場合、個人事業時代の税務調査が入る可能性が高いためです。
したがって、実際には、個人事業を廃業していたとしても、減額申請の理由には、「業績不振で売上が減少した」などと記載しておくほうが望ましいです。
こちらには、添付する書類の名称を記載します。試算表、業績管理表、損益推移表、など事業者ごとに名称は異なると思いますので、自社で作成している書類の名称を記載すれば問題ありません。
ここから下の項目は、実際に数字をある程度、集計して把握しておかなければ記載できません。エクセルや会計ソフトを使用して、数字を集計することをお勧めいたします。
6月30日(11月減額申請の場合は10月31日)時点での、現在の状況でその年分の所得を見積計上します。
6月30日(11月減額申請の場合は10月31日)時点での、現在の状況でその年分の所得控除の額を見積計上します。こちらは、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄付金控除、配偶者控除、配偶者特別控除、などの所得控除を記載します。
これらの所得控除項目は、毎年金額がほぼ同額で、大きく差額はありませんので、前年度の確定申告書を参考にするといいでしょう。
所得から所得控除額を差し引いて、課税される所得金額を求めます。課税所得が決まったら、税額を計算します。以下、所得税の速算表を記載しますので、参考になさってください。
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% |
0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% |
97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% |
427,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% |
636,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% |
1536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% |
2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% |
4,796,000円 |
例)
例えば「課税される所得金額」が700万円の場合には、求める税額は次のようになります。7,000,000円×23%−636,000円=974,000円 となります。
住宅ローン控除の金額を記載します。「申告納税見積額等の計算書の書き方」には、税務署にお尋ねください、と書いてありますが、前年度と同額でかまいません。
給与所得があって、源泉徴収税額がある方は、こちらに記載します。
年末にならないと源泉徴収票は作成されませんが、給与明細で毎月の給与から差し引かれている源泉所得税を把握できますから、その金額を記載します。
《7月減額申請の場合》
「第1期分」「第2期分」・・・それぞれ「申告納税見積額」の金額の3分の1にあたる金額を記載します。
《11月減額申請の場合》
「第1期分」・・・税務署から通知された第1期分の税額または7月減額申請で承認された第1期分の税額を記載します。
「第2期分」・・・{ 申告納税見積額 − 第1期分 } × 2分の1にあたる金額を記載します。