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消費税の簡易課税制度

消費税の簡易課税制度がイメージできる画像

 

簡易課税制度とは?

消費税の納付税額は、通常は次のように計算します。

 

課税売上げ等に係る消費税額−課税仕入れ等に係る消費税額=納付税額

 

しかし、その課税期間の前々年又は前々事業年度(以下「基準期間」という。)の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる簡易課税制度の適用を受けることができます。

 

この制度は、仕入税額控除を課税売上高に対する税額の一定割合とするというものです。

 

この一定割合をみなし仕入率といい、売上げを卸売業、小売業、製造業等(注)、サービス業等、不動産業及びその他の事業の6つに区分し、それぞれの区分ごとのみなし仕入率を適用します。

 

簡易課税制度のみなし仕入率
業種 仕入率
第一種事業(卸売業) 90%
第二種事業(小売業) 80%
第三種事業(製造業等) 70%
第四種事業(その他の事業) 60%
第五種事業(サービス業等) 50%
第六種事業(不動産業) 40%

(注)平成31年(2019年)10月1日を含む課税期間(同日前の取引は除きます。)から、第三種事業である農業、林業、漁業のうち消費税の軽減税率が適用される飲食品の譲渡を行う事業を第二種事業とし、そのみなし仕入率は80%(現行70%)が適用されます。

 

事業区分
事業区分 内容
第一種事業

消費者から購入した商品を品質又は形状を変更しないで他の事業者に販売する事業も卸売業に該当することになります。

 

また、業務用に消費される商品の販売(業務用小売)であっても事業者に対する販売であることが帳簿、書類等で明らかであれば卸売業に該当することになります。

第二種事業

食料品小売店が他から購入した食料品を、その小売店舗において、仕入商品に軽微な加工をして販売する場合です。

 

加工前の食料品の販売店舗において一般的に行われると認められるもの。

 

当該加工後の商品が当該加工前の商品と同一の店舗において販売されるものについては、加工後の商品の販売についても第二種事業に該当するものとして差し支えありません。

第三種事業

第三種事業は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定します。

 

なお、次の事業は、第三種事業に該当するものとして取り扱われます。

 

1.自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品とする、いわゆる製造問屋

 

2.自己が請け負った建設工事の全部を下請に施工させる建設工事の元請

 

3.天然水を採取して瓶詰等して人の飲用に販売する事業

 

4.新聞・書籍等の発行、出版を行う事業

第四種事業 事業者が自己において使用していた固定資産の譲渡を行う事業は、第四種事業に該当することになります。
第五種事業

第五種事業も、第一種事業から第三種事業以外の事業とされる事業を対象として、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定します。

 

なお、日本標準産業分類の大分類の区分が運輸通信業、金融・保険業、サービス業に該当するものは、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」であっても、第五種事業に該当します。

 

また、サービス業から除くこととされている「飲食店業に該当するもの」とは、例えば次のようなものをいいます。

 

1.ホテル内にある宴会場、レストラン、バー等のように、そのホテルの宿泊者以外の者でも利用でき、その場で料金の精算をすることもできるようになっている施設での飲食物の提供

 

2.宿泊者に対する飲食物の提供で、宿泊サービスとセットの夕食等の提供時に宿泊者の注文に応じて行う特別料理、飲料等の提供や客室内に冷蔵庫を設置して行う飲料等の提供のように、料金体系上も宿泊に係る料金と区分されており、料金の精算時に宿泊料と区分して領収されるもの

 

なお、例えば、「一泊二食付で2万円」というように、食事代込みで宿泊料金が定められている場合は、その料金の全額が第五種事業の対価となります。

第六種事業 第六種事業は、日本標準産業分類の大分類の区分が不動産業に該当するものをいいます。

事業者が行う事業が第一種事業から第六種事業までのいずれに該当するかの判定は、原則として、その事業者が行う※課税資産の譲渡等ごとに行います。

 

※資産の譲渡等とは、「事業として対価を得て行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいいます。すなわち、取引の相手方に資産を譲渡するなど何らかの給付をし、その見返りとして対価を受け取る行為が資産の譲渡等です。

 

資産の譲渡等って聞くと難しく聞こえますが、代表的なものは、売上ですね。


消費税簡易課税制度選択届出書

消費税の簡易課税制度の届け出がイメージできる画像

 

消費税簡易課税制度選択届出書を提出

消費税の簡易課税制度の適用を受けるためには、納税地を所轄する税務署長に原則として適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することが必要です。

 

「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となっている場合、又は新設法人に該当する場合で調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合は、一定期間「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できない場合があります。

 

この「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した事業者は、原則として、2年間は実額計算による仕入税額の控除に変更することはできません。

 

また、簡易課税制度の適用をとりやめて実額による仕入税額の控除を行う場合には、原則として、やめようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があり、とりやめる課税期間の初日から課税仕入れ関係の帳簿及び請求書などを保存することが必要です。

 

なお、簡易課税制度選択届出書を提出している場合であっても、基準期間の課税売上高(2年前の売上高)が5,000万円を超える場合には、その課税期間については、簡易課税制度は適用できませんのでご注意ください。


一般課税と簡易課税制度とどちらが有利?

消費税の簡易課税制度と原則課税のどちらが有利がイメージできる画像

 

一般課税(本則課税)と簡易課税制度

消費税の納付税額の計算方法

まず、消費税の納付税額は以下のように計算します。

 

消費税の納付税額 = 売上等に係る消費税額 − 仕入等に係る消費税額

 

売上等に係る消費税額=「預かった」消費税

 

仕入等に係る消費税額=「支払った」消費税

 

支払った消費税は仕入先が納付することになりますので、自社が納付すべき税額は「預かった」消費税からこの「支払った」消費税を控除した金額になります。

 

この控除する金額を「仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)」といいます。

 

仕入税額控除の計算には、事業者は課税対象となる仕入高だけではなく、設備の購入など消費税を支払った取引すべてを含みます。

 

そのため、仕入や経費の支払いの都度、その金額を記録し、納付税額の計算の際に課税対象となるものだけを計算する必要になります。しかし、この集計作業が、中小事業者にとって大きな事務的負担となります。

 

そこで、その事務的負担を軽減するために、簡易課税制度の届出を行った事業者は、課税売上等に係る消費税額(「預かった」消費税)の一定割合を課税仕入等に係る消費税額(「支払った」消費税)として計算することができます。

 

この方式を採用することによって、事業者は売上に関してのみ記録・計算を行えばよくなり、事務負担が大幅に軽減されることとなりました。

 

課税仕入れとなる取引

課税仕入れとは、事業のために他の者から資産の購入や借り受けを行うこと、又は役務の提供を受けることをいいます。

 

ただし、非課税となる取引や給与等の支払は含まれません。

 

課税仕入れとなる取引には次のようなものがあります。

(1)商品などの棚卸資産の購入
(2)原材料等の購入
(3)機械や建物等のほか、車両や器具備品等の事業用資産の購入又は賃借
(4)広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払
(5)事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
(6)修繕費
(7)外注費

なお、給与等の支払は課税仕入れとなりませんが、加工賃や人材派遣料のように事業者が行う労働やサービスの提供の対価には消費税が課税されます。

 

したがって、加工賃や人材派遣料、警備や清掃などを外部に委託している場合の委託料などは課税仕入れとなります。

 

一般課税(本則課税)と簡易課税制度とどちらが得?

業種と業務内容によって有利選択

では、一般課税と簡易課税制度とどちらが得になるのでしょうか?

 

簡易課税制度とは、上記でご説明しましたとおり、課税売上等に係る消費税額(「預かった」消費税)の一定割合を課税仕入等に係る消費税額(「支払った」消費税)として計算する方法です。

 

これに対して、一般課税とは、課税売上等に係る消費税額(「預かった」消費税)から、実際に「支払った」消費税を差し引いて計算する方法です。
売上に係る消費税額は、どちらの方法を採用しても同じですが、支払いに係る消費税の計算方法が大きく異なるわけです。

 

一般課税と簡易課税制度とどちらが得になるのか?というのは、業種によって異なります。

 

例えば、仕入や外注費が多い建設業などでは、一般課税を選択したほうが絶対に納付税額が少なくなり、得になります。

 

これに対して、美容院やインターネットサービス業など、仕入や外注の少ない業種は、簡易課税制度を選択して、売上金額のうち、一定割合を仕入税額控除とみなして、計算したほうが得になります。

 

さらに、同じ建設業であっても、電気工事業や水道設備工事業などで、手間請けの仕事をしているようなケースでは、材料は元請けが支給し、労務費だけ提供する請負形式の場合は、一般課税と簡易課税制度とどちらが有利かは、シミュレーションをしてみないとわかりません。

 

美容院でも最近では広告費を多く使うお店もありますから、そういったお店の場合は、一般課税制度を採用したほうが得になるかもしれません。


消費税を巡る税務上のリスクと注意点

消費税の税務上のトラブルがイメージできる画像

 

消費税を巡る税務上のトラブル

消費税のトラブルはやはり、各種届出書の期限に関するものが多いです。また、届出書を提出すれば継続適用しなければいけない期間も決まっていますから、途中でやり直しがきかないのもリスクです。

 

代表的な税務上のトラブルをご紹介しますね。

 

課税事業者選択届出書の提出を失念したため還付を受けれなかった

その課税期間の基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者になります。

 

免税事業者は、仕入税額控除を受けることができません。

 

そうすると、開業初年度に多額の設備投資が発生する期間には、売上に係る消費税額よりも支払いに係る消費税額、つまり、預かった消費税よりも支払った消費税の方が多くなるため、課税事業者をあえて選択することで、消費税の還付を受けることが認められています。

 

課税事業者を選択するためには、適用を受ける課税期間開始の日の前日まで(事業を開始した課税期間であればその課税期間終了の日まで)に、所轄税務署長に対して「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなければなりません。

 

この消費税課税事業者選択届出書の提出を失念しまっているケースが少なくありません。

 

提出期限を過ぎると適用を受けることはできませんので、事業開始のときに、多額の設備投資を検討している場合は、事前にシミュレーションしておくことが必要です。

 

また、顧問税理士がいる場合には、お互いに情報共有をすることが重要です。

 

さらに、この消費税課税事業者選択届出書を提出すれば、課税事業者になるわけですから、同時に、開業して2年間は消費税が免税ということもなくなりますので、注意が必要です。

 

課税事業者選択届出書と免税事業者の2年間の有利選択

消費税課税事業者選択書を提出するとその効力は継続しますから、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出しない限り免税事業者に戻ることが出来ません。

 

また消費税課税事業者選択不適用届出書は、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以降にしか提出できません(つまり、最低でも2年間は課税事業者を続ける必要があるということです)。

 

そうすると課税事業者になって仕入税額控除が受けられるメリットと、2年間免税事業者で消費税の納付がゼロであることと、どちらが有利であるか、慎重に比較検討しなければなりません。

 

簡易課税制度と一般課税による仕入税額控除の比較計算をしなかった

事業者が「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すると、基準期間の課税売上高が5千万円以下の課税期間については、業種ごとに定められたみなし仕入率を用いて仕入税額控除の計算を行います。

 

基準期間の課税売上高が5千万円を超える課税期間については、簡易課税制度による仕入税額控除の計算は出来ませんので、一般課税で計算することになります。

 

簡易課税制度と一般課税による仕入税額控除の比較計算を事前に行い、消費税の納付税額がどちらが少なくなるのか、得になるのかを見極めなければなりません。

 

簡易課税制度を選択する場合には、納税地を所轄する税務署長に原則として適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することが必要です。

 

そして、簡易課税制度最低2年間は継続しなければなりません。つまり、2年以内に途中で一般課税に戻したくてもできないのです。

 

これも実務上よくあるトラブルの1つです。来年度、再来年度の事業内容や経営の予測をして、判断しなければいけません。


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