税務調査で聞かれる箇所は何?
売上除外と架空費用の有無がポイント
個人事業の税務調査では、所得税、消費税、源泉所得税、印紙税がその対象になります。
税務調査の範囲と項目はかなり広いにもかかわらず、税務調査の日数は限られていますので、調査対象期間の取引のすべてを調べるのは困難です。
そこで、調査の中心となるのはもちろん所得税で、他の税金については、これに付随して調査が行われます。ですが、所得税だけでも調査範囲は広いので、さらに調査対象項目が絞られていきます。
必ずといっていいほど調査されるのは、次にあげる項目です。これらは間違いや不正が起きやすい項目で、しかも、間違いや不正があった場合の影響が大きい項目だからです。
その他の項目については、必要に応じて調査されるか、あるいは初めから全く無視されるかです。したがって以下に挙げる項目には十分注意するようにしましょう。
@売上除外や計上漏れと期ずれがないかどうか
架空売上がないかどうか、売上の計上時期が適切かどうかがまず調査のポイントになります。売上を隠していないかどうかは必ずチェックされるところです。
一般に売上の一部を除外すると売上高総利益率(粗利率)は低くなり、比率に異常がみられるようになります。売上高総利益率に異常があると税務調査の対象となる可能性が高くなります。
また、その年の売上に計上すべきものを翌年の売上にしていないかも、必ずチェックされます。
調査官は、経理の流れを確認する中で、事業者の収益(売上)計上基準を確認したうえで、当期に計上すべき売上が翌期に計上されていないかどうかを必ず確認します。
12月決算の個人事業主であれば、翌年の1月に計上されている売上について、出荷伝票や検収書、運送記録などで日にちが特定できるものを調べたり、12月の決算時に在庫として計上されているかどうかを確認します。
また、仮受金や前受金に残高がある場合は、その内容を確認し、商品代金の前受で売上に計上されるものであれば、それをいつ計上すべきなのかを確認します。
建設業のように追加工事が多い業種では、工事の内容次第ではいつの時点で完了(引き渡し)とすべきか判断に迷うことがあります。
追加工事が、本体工事に含められる工事なのか、新たな契約による別工事なのか実務上明確でないことがあり、実態で判断せざるを得ない場合もあるため、税務調査の時には見解が分かれることもあります。いずれにしても事業所で基準を明確にしておいたり、書類等を整備しておくことが必要です。
上記にも示しましたが、調査官が必ずチェックする項目の一つに「期ずれ」があります。
期ずれとは、収益(売上)もしくは費用を本来計上しなければいけない事業年度とは異なる事業年度に計上することです。
たとえば、20日〆の事業者が11月21日〜12月20日分の売上を12月に計上していたとしましょう。そうすると、12月21日〜31日までの10日間の売上は、翌年の1月分の売上として計上されてしまいます。
税務調査では、この10日間の売上は、今期の売上で計上してください!と売上の計上漏れとして指摘されるわけです。
また、企業会計の世界では、収益(売上)も費用も発生主義で計上し、収益(売上)と費用を対応させることが認められ、税法の世界でも同様です。発生主義とは、わかりやすく言うと、請求書が発行された月で計上する、ということです。
個人事業主の方は、特に入金があった日に売上を計上して、支出があった日に費用を計上している場合も少なくないでしょう。しかし、会計と税務の世界では必ず、発生主義が求められますので、注意してください。
A架空仕入や架空の外注費がないかどうか
架空仕入がないかどうか、仕入の計上時期が適切かどうかが調査のポイントになります。
実在しない業者からの仕入がないか、実在する業者からの仕入であっても、実際の仕入額よりも過大に計上されていないか調べられます。翌期の仕入に計上すべきものが、当期の仕入にされていないかどうかもチェックされます。
外注費は、最も不正をしやすい項目であるため、架空外注費がないかどうかは重点的に調べられるポイントになります。架空仕入や架空外注費の疑いが持たれると、反面調査が行われます。
仕入先や外注先に電話で問い合わせたり、文書で照会をしたり、あるいは調査官が直接仕入先や外注先に出向いて調査することもあります。
@の売上と同様に、収益(売上)と費用を対応させる必要があるため、売上と原価も対応しているかどうかチェックされます。
例えば、商品販売において、期中に仕入れた商品が売れ残っていた場合には、在庫として資産に計上しなければなりません。仕入だけ計上して、在庫に計上していなければ、在庫の計上漏れとなり、追徴税額が発生します。
調査は、事前に在庫の回転期間月数(在庫÷1か月分売上)等でおおむね在庫滞留期間を調べておいて、決算日よりその月数+αを目途に仕入れた商品がいつ売上に計上されたのか、在庫に計上されているのかをチェックします。特に決算日前1か月は必ずチェックされると思っておいてください。
商品の数が多い場合は、商品を絞って(高額な商品)確認します。
原材料や資材等であれば、原材料から製品等ができるまでの工程を確認し、どの時点でどのくらいの分量を投入するのか、日数はどのくらいかかるのか、歩留まりはどのくらいか、また資材置き場を現況確認して、どのくらいの分量を保管できるか等で、あるべき在庫の目途をつけ、実際との比較で絞り込むこともあります。
建設工事や機械製造、高額商品のように個々で原価対応を把握できるものであれば、原価管理台帳や工事台帳等と証憑類の突合せをして、翌期の売上に対応する原価が計上されていないかどうか確認します。
建設業の方は、収益(売上)と費用の対応も大切ですが、この在庫の把握も忘れがちですので、注意しましょう。
B人件費と家事関連費の範囲は適切か
実在しない人に対して給料を支払ったことにして架空人件費を計上していないかどうか、あるいは家事使用人に対して支払った給料を必要経費にしていないか、といったことが税務調査のポイントになります。
家事関連費については、業務に関係のない支出が必要経費に含まれていないかチェックされます。
例えば、飲食費や贈答品費用などで、本来は家事費用とすべきものを必要経費に算入していないかどうかなど調査の対象になります。
税務調査官にとって、業務に関係のない支出を拾い出すのは比較的簡単な作業です。個人事業では、家事費用や家事関連費用が必要経費として処理されてしまうことが少なくありませんので、注意が必要です。
C経費の内容と計上時期
経費については、12月決算期末に計上されているけれど、翌年の1月以降にサービスの提供を受けるようなものがないかを確認されます。
特に、取引先との関係から予算管理が厳しく、未実行もしくは未完了のものでも経費計上されてしまうケースもあります。
また、決算対策として、経費の前倒しを行った場合でも、例えば消耗品等で大量に購入したとしても、未使用であれば経費に計上することはできません。ただし、毎年経常的に一定量購入して消耗するものであれば未使用でも購入時の費用となります。
修繕費等で決算日内の請求書であっても、調査官が不審に思えば業者等へ反面調査を行い、作業員の日報や配送記録、材料資材の動き等を確認して、決算日にどのような状態であったかの裏付けを取って確認します。
広告宣伝費等で、サービス提供等の期間が決算日を超える場合も、期ずれとしてチェックされる項目となります。
また、固定資産の減価償却費の償却開始日は、取得した日ではなく事業の用に供した日なので、期末に購入した固定資産の決算日の状況が確認されます。特に、特別償却を計上している場合は影響額が大きくなりますので注意が必要です。
なお、税務調査で未計上の経費が見つかったときには、その経費を計上したうえで、税額が減額になるように調査官と交渉する必要がありますし、交渉してくれる税理士に依頼するようにしましょう。
D損失等(貸し倒れの事実などは事実か)
損失等で期ずれの問題となるものに、貸倒損失があります。
貸倒損失は、計上できる時期が通達で示されており、その時期を逃すと損金に算入することができません。したがって、売上や在庫の期ずれのように翌期で解消されるものではないので、調査対象のすべての期間でチェックが行われます。
法律上の貸倒れは、その事実が生じた年度でしか計上することができません。税務調査の指摘を受け、その事実が生じた年度が更正請求できる期間(通常は5年)であればよいのですが、時期を逃してしまうと、まったく損金にできなくなってしまいます。
事実上の貸倒れは、回収不能が明らかとなった場合に損金経理(経費に計上する処理)を要件に認められます。
回収不能の判断は、相手先の客観的な事実(財産状況、事業活動状況、支払実績、交渉記録等)を積み上げる必要があるものの、相手先の状況を把握するにはどうしても限界がありますので、事業者の合理的な判断に委ねざるを得ないことになります。
税務調査時に調査官により、「何故もっと早く判断できなかったのですか?」と確認されることがありますが、判断に至った理由が合理的なものであれば、認められます。
なお、証拠書類として、交渉の記録などを残しておく必要があります。
貸倒損失以外で、在庫の処分や固定資産等の廃棄・取り壊し等による除却損も原則その事実が生じた年度の損金となります。
税務調査では、現場の確認、稟議書のチェック、処分に関する書類(依頼書、見積書、完了報告書)や費用の支出状況等により、除却の事実と時期を確認します。
そこで、除却した時期が過年度のものと判定された場合は、経費に計上した時期が誤っているとして問題となることがありますので注意が必要です。
税務調査の種類
税務調査には強制調査と任意調査がある
個人事業主の方や、法人を設立して間もない場合は、税務調査を受けたことがない方も多く、そのことがかえって税務調査に対する恐怖心を増幅させているのかもしれません。
税務調査には大きく分けて2種類あります。「強制調査」と「任意調査」です。
「強制調査」というのは、いわゆるマルサ(国税局査察部)の調査で、起訴されるような大がかりな脱税に対して行われるものです。マルサは裁判所の令状をとっていますので、この調査を断ったり逃れたりする術はありません。
しかし、強制調査は、だいたい1億円以上、少なくとも数千万円の脱税が疑われるようなところにしか行われません。数にしてみると、全国で年間100件〜200件くらいです。
ですから、普通の個人事業主や中小企業が強制調査を受けるようなことはありません。
一方で、「任意調査」というのは、納税者の任意で行われるもので、税務調査のほとんどが、この任意調査に該当します。
任意調査だからといって、納税者が調査をまったく断ることはできません。税務署は税金に関してどんなことでも質問したり、調べたりすることができる権利があります。
そして、納税者には、税務署が質問してきたときには、それに答えなければいけない「受忍義務(じゅにんぎむ)」があります。
もし税務署の質問に対してウソの回答をしたり、知っていることを黙っていた場合にはペナルティの対象になる可能性もあります。警察の取り調べのような黙秘権はありませんので注意してください。
ですので、任意調査といっても、完全な任意ではありません。
ただし、正当な理由がある場合は、税務調査を断ることもできます。たとえば、税務署が「何月何日に調査をお願いしたい」と伝えてきたとき、その日に大事な用事がある場合には、税務調査を延期してもらうこともできます。
予告のないまま税務調査にやってきたとしても、その日にどうしても外せない用事があるときには延期してもらうことができます。
また税務署が税務調査の最中に税金と関係がないことについて調べることを拒否することもできます。例えば、調査官が事務所の机の中を調べるときは、納税者の許可を受けた上でないとできません。
もし何の断りもなく、机の中やキャビネットをのぞこうとすれば抗議できますし、あまりにひどい場合は、それを理由に調査を中止してもいいわけです。もちろん、担当の税理士の協力が必要になりますが。
したがって、税務調査があるからといって、すべてを何から何まで調べられるわけではありません。
任意調査 | 強制調査 | |
---|---|---|
調査の目的 | 通常の課税処分のための調査 | 租税犯則事件の調査と告発 |
法的根拠 | 通法74の2〜74の6 | 国税犯則取締法 |
調査担当者 | 国税調査官 | 収税官吏(国税査察官) |
調査方法 | 質問検査権の行使による間接強制調査 | 裁判官の令状による臨検・捜索・差押等 |
事前予告調査と無予告調査
税務調査には、強制調査と任意調査があると述べましたが、任意調査には、「予告調査」と「無予告調査」があります。
事前に「〇月〇日に税務調査にお伺いしたいのですが、、」と、納税者に打診したうえで行う調査を、予告調査といいます。税務調査は本来は予告調査が原則です。
もう一つは、予告をせずに抜き打ち的に行う調査を、無予告調査といいます。
日本は、申告納税制度の国であり、納税者の出した申告書を最大限尊重する、ということになっています。そして、税務調査をするときも、納税者の同意のもとに行うこととされています。
しかし、条件付きで、無予告での抜き打ち調査も認められています。無予告調査が認められているその条件というのは、@あらかじめ重要な情報があって、明らかに脱税が見込まれるもの、もしくは、A現金商売をしている場合、の2つです。
@あらかじめ重要な情報があって、明らかに脱税が見込まれるものというのは、巨額な脱税事件などに適用されるもので裁判所に許可を取って行われる、いわゆるマルサの調査です。
A現金商売をしている場合というのは、不特定多数の顧客を相手に、現金で商売する業種、小売業やサービス業を指します。
これらの業種では、売り上げたお金を隠してしまえば、どこにも記録が残らず脱税が成立してしまう可能性があるので、特別に無予告調査をすることが認められているわけです。
反面調査って何?
税務調査において、申告内容に曖昧な点があり、その点を質問しても説得力のある回答が得られない場合や、申告内容と帳簿書類に矛盾がある場合、帳簿書類の保存に不備がある場合においては、銀行や下請け業者のような納税者と取引関係にある第3者に対して調査を行うことがあります。
これを反面調査(はんめんちょうさ)といいます。
反面調査を行うことにより、調査内容の証拠や裏付けをとることを目的としています。
反面調査は通常、本人調査により把握できなかった事項、本人調査により疑義が生じた事項を確認するために行われるため、本人調査を経て行うこととなります。
しかし、納税者本人の帳簿書類の保管状況が劣悪である場合や、そもそも帳簿書類の記帳義務を果たしていない場合、帳簿書類を保管してはいるけれど納得できる回答を納税者が示さない場合には、本人調査を行うことが困難となります。
このような場合、税務署はやむを得ず本人調査に先立って反面調査を行う場合もあります。
税務署に「通帳を見せてください」と言われて、それを拒否しても、税務署には質問検査権がありますから、銀行に出向けば、通帳の取引はすべて把握されることになります。
税務調査で調査官が銀行に出向いて取引銀行の入出金記録を事前に把握していることはごくごく普通のことですから、通帳の提示を求められたら素直に提出するようにしましょう。
また、銀行以外に、下請業者や取引先などにも反面調査が行われることがありますが、何の事前連絡もなく税務署が取引先などに出向けば信頼を損なう可能性もあります。
前もって「今、税務調査中なので、御社に税務署から連絡があるかもしれないので、、」と、下請業者や取引先などに連絡しておくようにしましょう。